金沢大学大学院自然科学研究科システム創成科学専攻・機能機械科学専攻・工学部機能機械工学科

機構設計研究室

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当研究室では,主として繊維や糸の物性の研究とこれらを加工するときに生じる現象の解析を行なっています.現在,高次加工は職人的技術(know-how)を基に成立しており,技術(加工条件)の伝承,効率的・効果的加工を可能にするために,その技術を理論的に解析しデータベース化することを試みています.また,繊維製品の高付加価値化に伴い製造工程は複雑化しますが,これに対して種々の工程の自動化,高速化技術に関しても研究を行なっています.さらに様々なスケールにおける繊維集合体(たとえば,フィラメントから構成される糸,糸より構成される布,糸より構成される巻糸体)の力学特性について実験と数値シミュレーションを行ない研究しています.一方で,原子レベルの数値シミュレーションを行ない,ナノスケール材料の設計に関する基礎的研究を行なっています[詳細→].

● スプールからの解じょ張力
現在行われている釣りは多様であり,各々の釣りに適した仕様のスプールが存在する.しかし釣り糸の解じょ抵抗に関する実験に基づいたデータが少なく,またスプールの設計開発における各種寸法は経験的に決定されているのが現状である.そこで本研究では,スプールから高速ワインダで釣り糸を引き出すことによって,実際に錘をキャスティングした際のスプールの解じょ状態をモデル化し,錘の飛距離に影響を及ぼすスプールからの解じょ張力を測定する.また,様々な実験条件を設定し,解じょ張力をより詳しく探る.そこで得られたデータを基に,解じょ張力がどのパラメータに依存しているのかを探り,スプール開発にフィードバックすることを目的としている.
● 合成繊維加工法における糸経路観察
羊毛や絹などの天然繊維特有の複雑な構造を人口的に作られた合成繊維で再現することが昔から人々の夢であり,これまでに様々な加工法が考えられてきた.そのなかのひとつに羊毛のような風合いを持たせることを目的とした仮撚法とよばれるものがある.この加工法では合成繊維の原糸に加撚,熱固定,解撚といった工程を施し加工糸を作製する.こうして得られた加工糸は熱固定されているため撚りを解いても完全にはもとの形状には戻らず羊毛のような風合いを持つ.仮撚法の生産性を高めるための手法として,回転体の表面の摩擦力を利用し直接糸に撚りを加える摩擦仮撚法がある.これは高速生産の安定性が高く,毛羽が発生しにくいといった理由から3軸ディスクフリクションが主流となっているが近年ピンスピンドルに近い風合いの良い加工糸ができることと,設計上単純でコストも低いことから2軸ディスクフリクションが使用されるようになってきた.しかし,2軸型での実機データはほとんど公表されていないのが現状である.そこで,本研究では下図に示す2軸ディスクフリクションのモデル機を用いて,糸張力測定,高速度カメラによる糸経路観察などを通して2軸ディスクフリクションの設計資料を得ることを目的としている.
● 紐結び装置の開発
結び目は私たちの生活の様々なところで使用されており,手作業から自動化への移行が求められているところも多い.本研究では様々な結び目を作ることのできる「型」という部品を考案した.「型」はブロックに特定の溝を掘ったものであり,これをいくつか組み合わせて使用する.まず溝に糸を挿入し,組み合わせた型を開いて,糸を取り出し,きつく結ぶことで結び目を得ることができる.現在,この機構を利用することで自動化への道を模索中である.また,この装置は糸と糸を結ぶことを前提としており,今後,ものに糸を結びつけることができるように改良することで,さらに利用の幅が広がると期待される.なおこの装置は特許出願中である.
● 織機開口運動における騒音低減
近年,織機の合理化・自動化・高速化により機械運転時の騒音が増大し作業環境の悪化による作業者の健康被害が問題視されている.そのため,その騒音を測定・解析し騒音の低減に繋げることが本研究の目的である.従来の研究により織機の開口運動において,ヘルドとヘルドバーが衝突することにより発生する音が,騒音の主要因であると考えられている.そこで現在,ヘルドの衝突音と,その際のヘルド挙動との関係を明らかにするため,開口運動をモデル化した「モデル開口装置」を製作し,その機構からヘルドの運動を理論式で表し,衝突のタイミング等を求めている.また,デジタルハイスピードカメラを用い,実際の挙動を観察することでヘルドの挙動を求め,理論式の妥当性を確認し,そして,騒音を測定・解析したものと比較・検討し,衝突音の特性を探っていく.
● 糸の断面圧縮特性
織物に引張りや圧縮などの力を加えると織物は何らかの変形をする.しかし,設計段階で織物の立体構造の変化を予測することは非常に困難であり,織物の製造は経験的に行われている.そこで変形後の内部構造の形状をシミュレーションすることが求められている.織物の3次元シミュレーションを行うにあたり,織物の引張り特性には,織物中の糸の引張り特性と圧縮特性が影響を与えていると考えられるため本研究では実験装置を用いて糸を断面方向に圧縮し変形挙動を観察し,直径の変化量から糸の圧縮特性を求める.また,現在では糸圧縮時の直径の変化量から糸内部の繊維の移動について予想し,糸の断面圧縮シミュレーションモデルの作成を行っている.
● 柔軟構造体の内部構造特性シミュレーション
繊維製品の生産過程において,糸は心筒に巻取られ巻層の形状にして保管される.この構造体を巻糸体という.巻糸体形成の良否は,最終製品の品質などに大きく関わるため,形状や強度に均一性を持つことが必須条件となる.しかし糸層自体が持つ巻付張力により,巻糸体内部に不均質な力学状態が生じ,糸の品質を劣化させるなど種々の問題を引き起こす.例えば過剰な巻量設定のもとで形成された糸パッケージは,心筒近傍の糸層の締めつけが大きくなるため内層部での糸が座屈することになる.そこで,個別要素法を用いて,質点とバネでモデル化した糸で巻糸体を表現し,個別要素法により巻糸体内部の力学状態を解析する.また,糸の伸縮特性,曲げ特性の違いにより巻糸体内部で生じる力学状態や現象を検討し,柔軟構造体の内部構造特性を表現できる力学モデルの構築を行なっている.



Tomotsugu Shimokawa 平成20年9月4日