金沢大学 理工研究域 機械工学系
ナノスケール計算機実験グループ(下川・新山グループ)

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実験・理論からのアプローチが困難となる領域の問題に対して,仮定した原子間ポテンシャルで表現される仮想材料を計算機内に構築し,原子スケールの計算機実験(計算機シミュレーション)を行なうことで,新しい知見の獲得を目的とする.

キーワード :
分子動力学法,Quasicontinuum法
見えなかった物が,見えてくる可能性!

● 欠陥構造の相互作用シミュレーション
金属結晶材料の強度は,その内部構造(結晶領域と欠陥領域)と密接な関係を示す.欠陥領域としては,0次元的な点欠陥(空孔等),1次元的な線欠陥(転位等),2次元的な面欠陥(粒界等)が考えられる.それほど高温でない場合は,転位の運動が主な変形を担うことになるが,この転位運動に対する障害物が,材料の強度を支配していると考えることができる.このような欠陥構造の相互作用を理解することは,実験・理論的なアプローチでは困難であり,個々の欠陥構造を直接表現できる原子シミュレーションは有効な道具となりうる.現在では,転位と粒界の相互作用や,ナノ結晶特有の欠陥構造生成メカニズム,転位の集団的挙動より形成されると考えられる Grain Suvdivision メカニズム等について研究を行なっている.
● ナノ構造体材料の強度と内部構造の関係
結晶粒径が数百ナノメートルオーダで構成されるナノ結晶体は,通常の粗大粒とは異なる力学特性を示すことが報告されている.その原因として,粗大粒では無視できる粒界の体積率が,結晶粒径がナノメートルに近づくにつれて急激に増加することが考えられる.粒界は結晶構造の乱れた領域であるが,粒界を構成する結晶粒間の方位差や粒界面の傾きなどにより個々の粒界の構造は変化するため,ナノ構造体の強度・変形メカニズムを理解するためには,粒界構造の影響を無視することはできない.また,複数の欠陥構造の相互作用により生じる,ナノ結晶に特有な粒回転や粒集団挙動を取り扱うためには,個々の欠陥特性を理解するだけでは不可能であり,力学モデル構築には,考慮すべき代表体積要素の選定が重要である.ここでは,分子動力学法を用いて,複数の結晶粒により構成されるナノ結晶体モデルを直接計算機内に構築し,計算機実験を行なうことで,強度の粒径依存性や粒界性格分布依存性について検討している.
● マルチスケール原子シミュレーション法の開発
材料の力学特性,変形・破壊機構を計算機シミュレーションするためには, それぞれの目的に応じたモデルを構築する必要がある.原子シミュレーション は,個々の原子を直接取り扱うため,不均質構造や局所変形を表現できる有効 な表現手法の一つであるが,欠陥から離れた変形勾配の変化の小さな領域にお いても個々の原子を取り扱うので膨大な自由度を要求する.また計算可能な原 子数に制限があるため,境界条件が解析結果に大きく影響を与える.このよう な問題を克服するために,マルチスケールモデルの開発を行なっている.現在 では,concurrent型マルチスケールモデルである原子・連続体結合解法, 擬連続体法(Quasicontiniuum法:QC法)の開発を行なっている. QC法は,原子モデルにおいて変形こう配の小さな領域(広範囲 の弾性場)を要素に分割し,各要素内の原子の運動はその節点の運動に従い, その節点の運動はこの原子モデルで用いる原子間ポテンシャルに従うというも ので,原子領域と連続体領域の異なる空間スケールの結合を行ったものである. 原子・連続体界面の滑らかな結合方法や自動要素分割について研究を行なっている.
● 非晶質材料の塑性変形モード
二つの切り欠きを有する金属薄板に,円柱形状の物体を切り欠きの間に高速で 衝突させた場合,破壊モードの脆性−延性遷移が生じることが報告されている. つまり,ある臨界速度までは,き裂の発生により脆性破壊を生じるが,それよ りも速い場合は,せん断帯が形成され延性破壊が生じる.また,金属ガラスや ポリマー等においても同様な破壊モードの遷移現象が確認されている.通常, 破壊や変形は構造敏感性を示すにも関わらず,原子・分子構造の異なる固体材 料が,試験片レベルで破壊・変形に関して類似した変形速度依存性を示すこと は,大変興味深い現象だと考えれる.このようなアナロジ−は,変形モードに おいても確認されている.そこで,様々な構造の固体材料が示す類似した速度 に依存する変形・破壊モードの遷移現象を,分子動力学法を用いた計算機実験 を行なうことにより,各原子・分子構造に基づいて理解することを目的として 研究を行なっている.現在は,非晶質ポリマーの三次元的な立体角(四体力) の変化による分子鎖の配置の多様性(エントロピー効果)を表現できる二次元 モデルの開発を行なっている.
● 柔軟構造体の内部構造特性シミュレーション
繊維製品の生産過程において,糸は心筒に巻取られ巻層の形状にして保管され る.この構造体を巻糸体という.巻糸体形成の良否は,最終製品の品質などに 大きく関わるため,形状や強度に均一性を持つことが必須条件となる.しかし 糸層自体が持つ巻付張力により,巻糸体内部に不均質な力学状態が生じ,糸の 品質を劣化させるなど種々の問題を引き起こす.例えば過剰な巻量設定のもと で形成された糸パッケージは,心筒近傍の糸層の締めつけが大きくなるため内 層部での糸が座屈することになる.そこで,個別要素法を用いて,質点とバネ でモデル化した糸で巻糸体を表現し,個別要素法により巻糸体内部の力学状態 を解析する.また,糸の伸縮特性,曲げ特性の違いにより巻糸体内部で生じる 力学状態や現象を検討し,柔軟構造体の内部構造特性を表現できる力学モデル の構築を行なっている.



Tomotsugu Shimokawa 平成19年4月2日